会社帰りに銀座の並木通り歩いていると、洒落たバーが目にとまった。
「こんなところにバーがあるなんて」
と半分おどろいたが、ちょうど一杯飲みたい気分なので、フラッと扉をあけてみた。
「いらっしゃいませ」
年季の入ったマスターがカクテルを作りながら静かに言った。
「雰囲気のいい店だ」
カウンターに腰掛け、ギムレットを注文したのち、店の中を見渡してみると、ピアノが置いてあった。
「マスター、あのピアノ弾いてみていいかい？」
一言断ってから、ピアノを開けてみた。
「ちゃんと調律してあるから、なにか静かな曲を弾いてみてください」
マスターは言った。
だが、私がピアノに座ると、テーブル席にいた若いサラリーマン風のグループが彼を見て笑った。
「おじさん、無理しないでね～」
だが、私がショパンノクターン第２番とドビュッシー喜びの島を演奏しおえると、拍手が響き渡った。
次に私は、ショパンエチュード２番を演奏しはじめると、今度は皆は一様に私の指の動きにおどろき、さらに雰囲気は一変した。
先刻私を小馬鹿にした彼らは、驚きのあまりため息をつきました。魔法にかけられたみたいに－息をのんだ。
フラッと立ち寄ったバーで、ピアノを弾いて皆の喝采を浴び、私の周りで演奏を見ていた人々が興奮し、どれだけ拍手を長くしてくれていたことか！
私は自信満々にカウンターに戻り、ギムレットに口をつけた。
マスターが
「ピアノお上手ですね、音大出の方ですか？」
うれしい質問である。
「いやいや、４０歳過ぎてからの手習いですよ」
完全な勝利
私は静かに心の中で勝利に酔いしれた。
ピアノ、それもクラシックピアノをマスターするには、マンツーマンの指導にての練習が必要なので、
ある意味ピアノはお金のかかる趣味のひとつである。
それに長い練習時間も必要なので、私のような演奏をするには、普通のサラリーマンには到底かなわぬ夢である。
お金に不自由しない生活、さらに趣味を思う存分できる時間がある生活。
これこそ私が望んでいた生活である。
なぜ私がこのような生活を送ることができるのか？
それは若いうちから資産形成をしてきたからである。
だが、一介のサラリーマンである私には、株やＦＸなどに割く時間などは無い。
手間をかけずに、どうやってこのような資産を形成することができたのか？
それは・・・・・。
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